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鹿児島地方裁判所 昭和58年(ワ)34号 判決

原告

新原行男

被告

永野章子

ほか一名

主文

一  被告らは各自原告に対し金八八七万九一八五円及び内金八一七万九一八五円に対する昭和五五年六月一四日から、内金七〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告に対し金二〇五七万四七四七円及びこれに対する昭和五五年六月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

第二主張

一  請求の原因

1  (事故の態様・責任)

原告は昭和五五年六月一四日午前七時三五分ごろ、原動機付自転車を運転して鹿児島市草牟田二丁目五四番一六号先交差点を伊敷町方向から玉里方向へ時速約二五キロメートルで直進走行中、被告菱山製薬株式会社(以下被告会社という)保有の普通乗用自動車(被告永野運転)に左側面から衝突され(以下本件事故という)、後記の傷害を負つた。

なお原告車線は幅七メートルの優先道路、被告車線は幅約四メートル、一時停止の標示板が立つていた。本件事故は被告永野が一時停止を怠り、左右の安全を確認しないで交差点に進入した過失によつて発生したものであり、同被告は民法七〇九条により、また被告会社は自賠法三条により、それぞれ原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

2  (原告の傷害の程度、入・通院の経過)

原告は本件事故により、左脛骨腓骨骨折、頸椎捻挫、骨神経麻痺、肩関節打撲の各傷害を負い、左のとおり入院・通院し、治療につとめたが全治にいたらず、昭和五七年九月、左下腿・足背の知覚障害、腓骨神経領或の知覚鈍麻が残存し、後遺障害一二級と認定された。

(一) 有馬整形外科入院 昭和五五年六月一四~八月一七日

(二) 八反丸病院入院 同年八月一八日~一二月二一日

(三) 牧外科入院 同年一二月二二日~五六年三月一二日

(四) 八反丸病院通院 同五六年三月二九日~五七年九月末日

右通院期間中、手術のため二回入院(昭和五六年五月一九日~六月二〇日、八月二七日~九月一四日)した。

通算して入院日数は三二七日であつた。

3  (損害)

(一) 積極的損害 金二七四万三〇三一円

(1) 入院・通院治療費 金二〇九万二〇八一円

(2) 付添看護料 金四二万三五五〇円

(3) 雑費 金二〇万三四〇〇円

(一日六〇〇円)

(4) 通院交通費 金二万四〇〇〇円

(二四〇円の一〇〇日分)

(二) 逸失利益 金二五八六万八五〇〇円

原告は大工で、建設会社あるいは工務店から仕事を請負つて工事を完成させる仕事をしており、事故前一年の年収は金五八〇万円あり、その平均月収は金四八万三〇〇〇円であつた。しかして原告は右入院・通院期間中、全く収入を得ることができなかつた。

(1) 入院・通院期間中の逸失利益 金一三二八万二五〇〇円

(算式)483,000(円)×27.5

(2) 後遺障害による逸失利益 金一二五八万六〇〇〇円

原告は後遺障害認定当時四三歳であり、就労可能年数は二四年、一二級労働能力喪失割合は一四パーセント、新ホフマン係数は一五・五〇〇である。

(算式)5,800,000(円)×0.14×15.500

(三) 慰謝料 金五七〇万円

(1) 入院・通院による慰謝料 金四〇〇万円

(2) 後遺障害による慰謝料 金一七〇万円

(四) 弁済 金一一三〇万五六三一円

(1) 各病院への支払 金二〇九万二〇八一円

(2) 付添看護料 金四二万三五五〇円

(3) 生活費(逸失利益内入分として)金六七〇万円

(4) 後遺障害保険金 金二〇九万円

(五) 過失相殺 金三四三万一一五三円

原告にも過失があつたと考えられるので、(一)・(二)・(三)の合計から一割を控除する。

(六) 弁護士費用 金一〇〇万円

(七) 合計金 金二〇五七万四七四七円

(一)ないし(三)の合計から一割を控除し、さらに(四)を控除し、(六)を加えた額である。

4  (結語)

よつて原告は被告らに対し、原告が本件事故によつて蒙つた損害金二〇五七万四七四七円とこれに対する不法行為の日である昭和五五年六月一四日から民法所定の年五分の割合による損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する答弁等

1  請求の原因1の前半の事実は、原告車の時速の点を除き、認める。後半の事実は、被告永野が一時停止を怠り左右の安全確認をしなかつた点を否認し、その余は認める。

2  同2は認める。

3  同3中

(一) 積極的損害については、(3)雑費を争い、その余は認める。雑費は一日金五〇〇円が相当

(二) 逸失利益及び慰謝料については争う。原告の事故前の年収は不知。なお、大工については請負金額の六、七割を必要経費とみるのが相当である。本件の場合、都道府県別の屋外労働者職種別賃金表による鹿児島における大工の平均賃金一日当り金七〇二〇円を逸失利益算定の基礎とすべきである。また、後遺障害の部位、態様からして将来の逸失利益喪失期間は一〇年に減縮されるべきである。

(三) 同(四)は認める。

(四) 同(五)については、原告の過失は二割を下らない。また、本件事故による入通院治療費につき、原告が鹿児島市の国民健康保険を利用した分の加害者たる被告永野に対する鹿児島市からの求償請求額が金二〇五万一七一四円であるから本件過失相殺の算定に当つては、右金員も原告主張の入院・通院治療費に加算されるべきである。

(五) 同(六)は不知。

第三証拠〔略〕

理由

一1  請求の原因1の前半の事実のうち原告車の速度の点を除く事実は当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証の四によれば、原告車の速度は時速二〇ないし三〇キロメートルであつたことを認めることができる。

2  同後半の事実のうち被告永野が一時停止を怠り左右の安全確認をしなかつた点を除く事実は当事者間に争いがなく、成立に争いがない甲第一号証の一ないし八によれば、被告永野は本件事故現場交差点手前で一時停止したものの右方の安全を十分確認しないで同交差点に進入したため本件事故を惹起したことを認めることができるから、同被告には右の点において本件事故発生について過失があつたというべきである。

したがつて、被告永野は民法七〇九条により、被告会社は自賠法三条により、それぞれ原告の蒙つた損害を賠償する責任がある。

二  請求の原因2は当事者間に争いがない。

三1  請求の原因3(一)中(3)を除く事実は当事者間に争いがなく、入院中の雑費については一日当り金五〇〇円をもつて相当と認めるから三二七日間の雑費は合計金一六万三五〇〇円となる。

2  原告本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第三号証の一ないし八並びに原告本人尋問の結果によれば、原告は昭和一三年一〇月二四日生れの男子であり、大工として建設会社あるいは工務店から仕事を請負つて工事を完成させる仕事をしていること、入通院期間中原告は稼働することができなかつたことを認めることができる。ところで、右各証拠によれば、本件事故前一年間の原告の契約高については金五八〇万円であつたことが認められるものの、右金員がすべて原告の実収入と認めることができないうえ、仕事の性質上継続性を有する金員であると解することができないので、右契約高をそのまま逸失利益算定の資料とすることはできない。他方、成立に争いのない乙第二号証には労働大臣官房統計情報部編「建設・輸送関係業の賃金実態」昭和五六年版による都道府県別屋外労働者職種別賃金として鹿児島県の大工の場合一日当り金七〇二〇円である旨記載されているが、前掲各証拠と対比すれば、乙第二号証記載の大工と原告のように自ら請負人となつて工事を完成させる大工とは性質を異にするということができるから、右乙第二号証でもつて原告の収入算定の基礎資料とすることはできない。

したがつて、原告の収入については賃金センサスによることとする。そして、右賃金センサスによれば、昭和五五年の産業計企業規模計男子労働者のうち四〇ないし四四歳の男子労働者の年収は金四一八万〇七〇〇円であるから、入通院期間中の原告の逸失利益は金九五八万〇七七〇円となる。

4,180,700÷12×27.5=9,580,770(円)

前記二の事実に加えて成立に争いのない甲第二号証、乙第一号証の一、二、証人八反丸真人の証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は後遺障害認定当時四三歳の男子であり、今後六七歳までの二四年間就労可能であつたこと、本件事故により就労可能期間中その労働能力を一〇〇分の一四喪失したことを認めることができるから、後記障害による逸失利益は左のとおり金九〇七万二一一九円となる。

4,180,700×0.14×15.50=9,072,119(円)

3  前記認定にかかる本件事故の態様、結果、原告の入通院の期間、後遺障害の内容、程度等を総合すれば、慰謝料としては左の金員をもつて相当と認める。

(一)  入通院分 金一七〇万円

(二)  後遺障害分 金一三〇万円

4  前掲甲第一号証の一ないし八、原告本人尋問の結果によれば、原告は本件事故現場交差点に進入するに際して進路左側に大型トラックが停車していたため、道路中央寄りを通つて前方に出たところ、進路左側に対向して歩いてくる数名の高校生に気をとられ左方の安全を十分確認しないで右交差点に進入したため本件事故に遭遇したことを認めることができるから、原告にも左方の安全を確認することを怠つた点において過失があつたものというべく、かつ、前記認定にかかる本件事故の態様、被告永野の過失の内容等を総合すれば、原告の本件事故に対する過失割合は二割をもつて相当と認める。

5  請求の原因3(四)は当事者間に争いがない。

したがつて、右1ないし3の合計金員について同4の割合による過失相殺した金員から右金員を控除すると金八一七万九一八五円となる。

なお、被告らは国民健康保険による求償分も過失相殺にあたつて算定されるべき金員であると主張するが、国民健康保険法によれば、同保険の被保険者は故意の犯罪行為に基づく等一定事由のあるとき(同法六〇条ないし六三条参照)以外は自己の過失に基づくときでも保険給付を受けるべき権利を有するから、右給付が第三者の行為による場合であつて、かつ、被保険者の過失が競合するときは、その過失割合に相当する部分については被保険者の権利の範囲内のものということができる。したがつて、本件の場合、健康保険給付のうち原告の過失割合に相当する給付分については、原告が被告に対して有する損害賠償請求権の範囲には含まれず、右説示にかかる原告の権利に基づくものであつて同法六四条による求償の範囲外たるものというのが相当である。よつて、被告ら主張にかかる鹿児島市からの求償請求分については過失相殺の算定にあつて考慮の対象としない。

6  本件事案の内容、審理経過、本訴認容額等に照らすと弁護士費用としては金七〇万円をもつて相当と認める。

四  よつて、原告の本訴請求は被告らに対し各自右三5、6の合計金八八七万九一八五円及び弁護士費用を除く内金八一七万九一八五円に対する本件事故発生の日である昭和五五年六月一四日から、弁護士費用である金七〇万円に対する本判決確定の日の翌日から各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言について同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 神吉正則)

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